北アルプス地域で活躍する「人」にフォーカス。地域で事業や活動をしている人、ものづくりや場づくりに取り組んでいる人を紹介する。        

 　長野県池田町で「れんさんのゲストハウス（池田春麓庵）」を営むグェン・ティヴィエット・リェンさんに話を聞いた。

ーーー リェンさんはベトナムの出身ですが、日本とのつながりはいつからですか？

　親の仕事の関係で、小学生の3年間を東京で過ごしました。日本の学校はベトナムとは全く違って驚いたのを覚えています。日本の学校は立派だし、施設が充実していて、プールまである。私は子どもの頃から体を動かすのが好きで、いろいろなスポーツを取り入れている日本の体育の授業にも感心しました。その際の滞在経験から、日本を第二の母国と思っています。

　高校時代に日本語検定2級を取り、両親の応援もあって、大分県にある国際大学に留学しました。72カ国の学生が在籍する学校で、まさに異文化交流。授業は日本語と英語で、私は社会学系の学科で、メディアや観光について学び、国際ゼミに所属していました。勉強に熱心な学生ではありませんでしたが(笑)。

　学生は寮に住んでいて、私は寮長として新しく入った学生にゴミの出し方を教えたり、人の世話や手助けをしたりするのが好きなので、今思えばゲストハウスの仕事は私に合っているかもしれません。
 

インタビューに答えるリェンさん

ーーー 今年7月から池田町でゲストハウスを始めましたが、そのきかっけは？

　大学を卒業してからは、東京の会社でシステムエンジニアをしたり、ウェブ広告の営業の仕事をしたりしていました。転職しながらキャリアを積んでいましたが、独立して新たなことを始めたいと。自然の豊かな地方に移り住んで、もっとアナログでシンプルに生きようと思ったのです。

　元々登山やキャンプが趣味で、度々長野県を訪れていました。海か山どちらが好きかと問われれば断然、山！2020年に3泊4日で立山に登って、改めて山に魅了されました。
 
　それまで池田町のことは知りませんでしたが、たまたま車で通った際の山の景色が素晴らしくて。帰ってからあそこはどこかとインターネットで調べました。高台にあるクラフトパークという公園から眺める北アルプスの景色もまた素晴らしく、とりこになりました。

　2020年の初めに「今年中に会社を辞めて独立する」と決意し、退職の翌日には長野県に行き、ゲストハウスを運営できる物件を探していました(笑)。いくつか不動産屋を回りましたが、なかなか良い物件が見つからず…。最後に訪れたのが信州不動産でした。社長の猿田正志さんは不動産業を通じて古民家の再生に取り組んでいる方です。何軒か紹介してもらった中の一つが池田春麓庵でした。

　純和風の民家が既にゲストハウスとして改修された状態で、賃貸契約で自分自身も住みながら経営ができる。こんなに良いチャンスはないと思い、翌日には猿田さんに返事をして一緒に契約書を作っていました。

ーーー 地方への移住や起業に不安はなかったですか？
 
　不安はなくて、ワクワクだけでした。私は楽観的な性格なので何とかなるだろうと(笑)。新しい環境に行ってみたいという気持ちが強いのです。

　2021年の4月に移り住んで、会社の設立や資金集め、開業準備に取り掛かりました。照明を取り付けたり、DIYの素人ながらもカウンターキッチンのタイルを貼ったりもしました。6月末にようやく準備が整い開業しました。

　ゲストハウスを始めて近所にあいさつに回りましたが、地域の人にも受け入れてもらっています。町誌でも紹介され、それを読んで訪れてくれた人も。毎日、犬の散歩していると近所の人が声を掛けてくれますよ。

看板犬の「そら」と

ーーー これからどんなゲストハウスを目指していきますか？

　この物件に出合った時の印象は、宿というよりは家。だから、コンセプトを「田舎にあるもう一つの家」にしようと考えました。ホストがそこに住んでいて、また訪れると「お帰りなさい」と出迎える。暮らしの延長線上にあるような、そんな居心地の良い場所にしたいです。耳を澄ませば水の流れる音や鳥のさえずる声が聞こえる。一歩外に出れば北アルプスの山々が見える。訪れる人にもそんな体験をしてほしいです。

　これからは、ゲストハウスを拠点に点と点をつなぐように、いろいろな人とコラボレーションしていきたいです。そして、私だけでなく誰でもその気になれば自由に生きられるということも、伝えていけたら良いですね。

 
ーーー すてきなお話、ありがとうございました。

れんさんのゲストハウス